
木と花を見て、蜂と共に暮らし、新潟に生きる養蜂家
新潟市秋葉区「橋元養蜂園」
2025.9.30
毎年、春の入荷を楽しみに待つ方がたくさんいらっしゃる、大人気のハチミツがあります。新潟市秋葉区や五泉市、胎内市、聖籠町に養蜂場を持ち、ご夫婦で養蜂を営む橋元養蜂園さんのハチミツです。今日はその人気の秘密・おいしさの秘密を探りに、新潟市秋葉区の本社事務所へ伺いました。
ところで、養蜂家のお仕事って謎に包まれていると思いませんか?養蜂は「畜産」に分類されるということで、もしかしたら牛を育てながら乳を搾る「酪農」に近いのかもしれない。でも、まず蜂の生態が謎。なんで「アカシアハチミツ」とか、花ごとに蜜が採れるんだろう?混ざらないのはなぜ?蜂をその花がある場所だけに閉じ込めるの??…などなど、調べれば調べるほどに謎が深まるのでありました。
まずはそんな、我々取材班の初歩的な疑問・質問をぶつけてみました。
「確かに、分かんないですよね、養蜂って。僕もじぃちゃんがやってたんで、なんとなく知ってましたけど、本格的に自分でやり始めて“そうだったんだ!”と思うことも多くて、日々新鮮です。…あの、僕、養蜂の話をし出すと止まらないんで、いいところで止めてくださいね(笑)」
と友哉さん。
良かった…!じゃあ、いっぱい聞いちゃおう!(笑)
なるほど、では、橋元養蜂園さんの始まりはおじいさまなんですね。事業継承ってことですか?
「いや、事業継承ではないです。じぃちゃんは仕事としてではなく、趣味で家の近くに巣箱を2・3箱置いていて、ご近所さんに頼まれて売ったりしていたみたいです。少し中断していた期間があって、ちょうど僕が大学3年生の頃に、“新潟に帰ってくるなら、一緒に養蜂やらないか?”と言われて、養蜂家になろうと決めたんです」
おぉ、趣味ではなくて、本業で?
「じぃちゃんは“趣味として”手伝ってくれ、という意味だったと思うんですけどね(笑)。僕はとにかく就職活動がしたくなくて(笑)。あと、なんとなく、普通に就職してサラリーマンになるイメージが湧かなくて、何か自分でやりたいなと思っていたんです」
聞けばご両親も実業家で、養蜂とは違う事業を立ち上げられたとのこと。そちらの家業はお兄さまが引き継ぎ、次男の友哉さんはおじいさまからのひと言をきっかけに養蜂家の道へ。大学卒業後、新潟市東区河渡のおじいさまの元で少し学んだ後、養蜂を本業とする方の元へ。2年間の修行を経て2014年に独立。2024年には法人化し、今では新潟県内最大規模の養蜂を営んでいらっしゃいます。
あっ、さっきの初歩的な質問なんですが、ハチミツって、なぜ混ざらないんですか?蜂が選んで採ってくるんですか?
「僕らが飼っているセイヨウミツバチは、その時期に1番蜜が出ている花から蜜を集める習性があるので、基本的には同じものを集めてくれるんです。ただ、集めていた花の蜜が無くなると次の花を探すので、その境目の時期は混ざっちゃうんですよね。混ざったものは“百花蜜”として販売しています。混ざったかどうかは、僕らが食べて確かめます」
なるほど…!
混ざらない理由、混ざってしまった時の対処方、スッキリしました!
その他、養蜂の基本について詳しく伺うと、ミツバチが暮らす巣箱は、「蜂が暮らしやすい環境」と「人がハチミツを採取しやすい環境」の両方が整えられていて、蜂が生きていくために必要な分のハチミツは残し、余剰分を採取。蜂たちがいつも元気に活動できるように、巣箱を開けて、蜂たちの健康チェックも欠かさない。これが養蜂家さんのお仕事の基本だということが分かりました。
ところで、橋元養蜂園さんは「春しかハチミツを採らない」と伺いましたが本当ですか?
「本当です。4月から7月の初めまでで、1年分のハチミツを採ります。春は花がたくさん咲く季節であり、ミツバチの繁殖期でもあるので、ハチミツが1年で1番よく採れる時期なんです。養蜂家さんの中には年中春を求めて、南から北へ移動する方もいらっしゃいますよ。僕らはそういう“移動養蜂”ではなく“定置養蜂”なので、採蜜は新潟に春が来ている間だけです」
詳しくお話を伺い、整理してみると、橋元養蜂園さんの1年はこんな感じ。
ハチミツを採る時期。蜂の繁殖期とも重なるため、生まれてから死ぬまで約1カ月と蜂の生態サイクルも早く、蜂の数も1巣箱約2万匹から5~6万匹へとどんどん増える時期だそうです。たくさんの蜜を集めてもらうためには、多くの蜂がいた方が良いけれど、増えすぎると「分蜂(ぶんぽう)」といって、新しい女王蜂が誕生して、働き蜂を半分連れて巣箱から出て行ってしまうため、分蜂が起きないギリギリを見極めて管理。この時期の巣箱は、花が咲くタイミングに合わせて次々に設置場所(養蜂場)を変更します。そのため、採蜜だけでなく巣箱の移動もあり、1年で1番忙しい時期です。
一方、橋元さんたちがハチミツを集めて回って、巣箱の様子を観察している蜂とは別に、農家さんのところで働く蜂もいます。ポリネーション※用(受粉用)に農家さんに貸し出している蜂で、ビニールハウスの中に巣箱を設置し、ハウスの中の作物の花の蜜を集めると同時に受粉して回ります。作物によって時期はまちまちですが、受粉が必要なくなる秋には全ての巣箱が橋元さんのところに戻ってきます。
※ポリネーション(pollination)とは「受粉」という意味の英語。受粉は風によっても行われますが、昆虫や鳥などの生き物によっても行われます。このような生き物たちは「ポリネーター」と呼ばれており、ミツバチもその1つ。
ハチミツは採らず、今年の春の採蜜量やポリネーションの需要量などから来年の計画を立て、その計画に合った数になるように蜂を育てて増やす時期。意図的に分峰させることと、新しい蜂を仕入れること、両方行うそうです。この時期の巣箱は、管理しやすいように事務所から近い養蜂場に設置。
ちなみに取材時の総巣箱数は、採蜜用180箱・ポリネーション用450箱とのことで、どちらも新潟県内では最大規模とのこと。すごい…!
蜂が冬を越せるように準備し、管理をする時期。ポリネーション用に貸し出していた巣箱も戻ってくるので、採蜜用の巣箱と一緒に準備と管理を行うそうです。蜂は冬眠しないため、ワラを敷き詰めたり入口を狭くしたりして、巣箱の中が暖かくなるようにします。冬の間も巣箱の中の様子を観察して、エサが足りないようだったら補給します。この時期の巣箱は、リスク分散のため新潟に置いておく一部を除き、全て福島県いわき市の養蜂場へ。新潟よりも雪が降らず暖かいため、越冬に向いているとのこと。いわき市にも週に1回のペースで様子を見に行き、エサの補充などの管理を行います。
年を越して3月になると、春のポリネーション用巣箱の出荷に向けての準備も行います。出荷してすぐ、農家さんのところで活発に動きまわる蜂を出荷できるよう、新潟よりも早くに春が来る和歌山の養蜂家さんから新しい蜂も仕入れるそうです。同じ3月でも、新潟やいわき市で越冬した蜂はまだボーっとしているけれど、和歌山ではすでに梅が咲いており、春のスイッチが入った元気な蜂がやってくるそうです。
上記の通り、巣箱はその時々の適切な場所(養蜂場)へと移動させます。特に採蜜期は、採りたい蜜の花が咲くタイミングを見計らって移動させるため、大忙し。
「夜、蜂が巣箱の中で寝ている間に移動させないといけないので、真夜中の作業です。ライトを付けて、トラックに詰んで、蜂が起きる前に次の場所に設置して…」
おぉ、それは大変そう。
「でも、気持ちいいですよ。移動させるのは、晴れている日ですし、自然の中で蜂と共にさわやかな朝を迎えています(笑)」
と友哉さん。
蜜はどうやって採るんですか?
「一般的には、養蜂場に遠心分離機を持って行って、その場で蜜だけを持ち帰るんですが、分業と衛生面の観点から、僕らは巣箱の中の蜜が詰まった“巣枠”だけを加工場に持ち帰ります。その後、加工場の室内で遠心分離機にかけて、巣枠から蜜だけを取り出します」
「巣箱を丸ごと移動させるのは重労働なんですが、巣枠だけなら簡単に持ち帰れますし、加工場の中で採蜜作業ができるので衛生面でも安心です。さっき夫が“分業”って言っていたのもまさにこれで、遠心分離機をかけるところから先、瓶詰めまでは主に私が担当しています」
とかおりさん。
遠心分離機にかけた後は、一斗缶に詰めて保管。
出荷に合わせて、一斗缶から出して、濾して、瓶に詰めます。
「今年4月にこの施設ができて、ここまでの工程をこの場で全部できるようになりました。それまでは、遠心分離機にかける場所、一斗缶の保管場所、瓶詰めをする場所が別々だったり、導線が良くなかったりしたので…」
とかおりさん。
さらにこの加工場は、HACCP(ハサップ)※認証も取れるように考えて設計されているそうで…
「ハチミツって糖度が高くて腐ることがないので、衛生面での規制や公の機関の管理・指導はそんなに厳しくないんです。ただ今後は、消費者の方の安全面や衛生面でのニーズも高まっていくと思うので、将来を見据えてこうしました」
と友哉さん。
※HACCP(ハサップ)とは国際的な衛生管理手法で、食品の製造から出荷までの全工程における食中毒菌汚染や異物混入などの「危害要因」をあらかじめ分析し、それを除去・低減するために重要な工程を重点的に管理することで、食品の安全性を確保する手法。この手法を実現するために必要な設備やシステムが整えられていることが認められると、「HACCP認証取得済の工場/加工場」となる。
この加工場の動きも、採蜜の動きに合わせて変わるので、「この時期は山桜の蜜を、この時期は藤の蜜を…」と、加工する蜜の種類が変わります。この「蜜の変わり目」は、その時その花の蜜が採れる場所へと巣箱を移動させることによって生まれるのですが、この「巣箱を移動させる時期の目安」って、何だと思いますか?
答えは、「季節の移ろい」なんです。
確かに当たり前と言えば当たり前なんですが、周囲の木や花の様子を見て、季節の移ろいを感じて、「そろそろ移動だな」と判断されるそうです。もちろん巣箱の中の様子も鑑みて、総合的に判断されるそうですが、常に季節を感じ取って動いていらっしゃることに驚きました。
「常に木とか花は気にしてますね。車で走っていても、“あの木なんだろう?”とか“あ!ケンポナシの花がもう咲いてるね!”とか」
「確かに、無意識に見てるな…」
橋元さんご夫婦の会話を聞いていても、それがごくごく自然なことだと分かります。
また、常に周囲の木や花を見ているからこそ、気付くこともあるそうで…
「温暖化の影響は大きいですね。以前よりも、花が咲いている期間が短くなっています。あと、花が蓄えている蜜の量も少なくなっているようです。花が咲いている期間=蜂が蜜を集められる期間ですし、花の蜜量=蜂が集められる蜜量なので、結果的に採蜜量の減少につながります。少し乱暴な言い方ですけど、じぃちゃんが養蜂をやっていた昔は、放っておいても蜜が採れたんですけど、今は工夫しないと採れない。今後も温暖化は進むと思うので、全体として採蜜量が減っていくことは覚悟しなきゃいけない」
と友哉さん。
「そういった環境の変化への対応として、今後、さらに注力したいと考えているのが、ポリネーション用の蜂の育成なんです。実は、新潟でポリネーション用の蜂を育てている人は少なくて、ほとんどの農家さんは県外の養蜂家さんから蜂を仕入れているんです。県外の蜂が悪いことは全くないんですが、地元の農業は、地元の養蜂家が支えられた方がいいんじゃないかな、と…」
聞けばなんと、新潟県のブランドイチゴ「越後姫」の畑の約4割で、橋元養蜂園さんの蜂が活躍しているとのこと。受粉は蜂を使わなくてもできますが、イチゴはまんべんなく受粉しないとうまく実がならないそうで、それには蜂による受粉が最適なんだそうです。
「以前、県外の蜂が入荷しないトラブルがあって、その時の農家さんの大変さを目の当たりにしたことも大きいですね。もっと地元の養蜂家が、地元の農業を支えなきゃだなって思いました」
自然環境の変化から、今後も減っていくことが予想される採蜜量。ポリネーション用の蜂を増やすことは、その減少を経営面からカバーすることにもなる。先ほどの加工場のHACCP認定仕様と同じく、橋元養蜂園さんの先を見て動かれている姿に感服します。
そう言えば、かおりさんはご結婚されてから養蜂をされるようになったんですよね?蜂を飼うって抵抗なかったですか?虫、大丈夫でした?
「私、自然豊かな秋葉区育ちなんで、虫は大丈夫なんです。それにうちの蜂、かわいいんですよ。ちっちゃいし、手に乗せるとトコトコ歩くし、指に蜜を付けると舐めに来るし!」
飼っているペットの話みたいですね(笑)。
「そうですね、“飼い蜂”ですからね(笑)」
蜂のかわいさの他に、どんなところに「養蜂のおもしろさ」を感じますか?
「僕個人的には、“結果がすぐに出ること”がおもしろいんですよね。良くも悪くも、昨日やったこと・やらなかったことが、ちゃんと蜂たちに影響して、次の日に結果が見える。僕せっかちなんで(笑)、ちょうどいいんですよね。ほんと、天職だと思ってます。あと、同じことが起きないのもおもしろい。次はどうしようか?っていつも考えてますね」
と友哉さん。
「それに、ミツバチの生態もおもしろいですよ。人間に例えると、とんでもない社会が彼らの中にできあがっているんです。特にオス。ミツバチのオスは一切働かず、働き蜂であるメスが集めたエサを食べてダラダラと過ごし、繁殖期になって巣を出て、女王蜂と出会い、交尾をした瞬間に死ぬんです。内臓を引っこ抜かれて…」
えぇえぇ…!?
さらに、ゆかりさんからとどめの追加情報。
「繁殖期を過ぎても交尾ができずに生き残ったオスは、巣から追い出されて餓死させられるしね(笑)」
わぁ…、生き残ってもダメなんだぁ…(笑)。
「ミツバチって、生まれてからの日数で、巣の中での役割が変わっていくんです。自分が生まれてから死ぬまで、その時々の自分に与えられた役目を果たして命を終えていく。またそれが、完璧な団体行動なので、あの巣箱1つが、意志を持った1つの生命体みたいだな、と思って見ています」
1巣箱が1生命体!興味深いです…。
(蜂の生態については、ぜひ皆さんも調べてみてください。知らないことだらけで驚きました…)
今回の取材、事前にお送りした質問書に、びっしりと回答を書き込んで臨んでくださった友哉さん。冒頭「養蜂の話をし出すと止まらない」と仰っていた通り、大好きな昆虫の話を興奮気味に話す少年のような一面を持ちつつ、現実を冷静に捉え、将来を見据えた行動をとられている、しっかりとした経営者さんでした。
一方、「大変そうだったから、手伝おうと思った」と、友哉さんと一緒に養蜂を始めた頃をサラッと語るかおりさん。肝っ玉母さんのような頼もしさを感じる、笑顔がキュートな女性でした(この取材後に第一子を出産され、本当に“お母さん”になられました♪)。
かおりさん曰く
「“おいしいね”とか、“きれいだね”とか、“あなたのところのハチミツ以外食べられなくなったわ”というようなお客さんの声が、何よりもうれしいです。私たちが育てた蜂が一生懸命に集めてくれて、私たちが大切に採った蜜なので、その全てを褒めていただけた気分です」
と。
ハチミツのキレイさは、不純物の少なさ。
今回拝見した加工場の設備からも分かる通り、橋元養蜂園さんはかなりこだわっていらっしゃいます。この美しさ・透明感は、おふたりのこだわりが作り出したものなんですね。
「実は、僕がローヤルゼリーアレルギーなんですよね(苦笑)。でも、うちのハチミツは食べてもアレルギー反応が出ないんです。この仕事を始めてから発症したので、“より純度の高いハチミツを作りなさい”との思し召しなんだと思います(笑)」
最後に素晴らしいオチを、ありがとうございます!(笑)
養蜂と蜂のお話、とっても楽しかったです!
橋元養蜂園さんの蜂への愛情とこだわりがギュッとつまったハチミツ、皆さまぜひ一度ご賞味ください。
(2025.7.25取材)
ナチュレ片山 本店