おおしま農縁さんのご自宅兼作業場。ちょうど秋の収穫が終わる頃で、軒下には雑穀が干されていました。

雑穀って、こんなにかわいい

皆さん、ご存じでしたか?
雑穀って、かわいいんです。
いろんな色があって、形があって、乾燥後のものを束にすると、ドライフラワーのブーケみたい。

5種類の雑穀を束にした「雑穀ブーケ」。1番下の細かくて薄茶色のものがもちキビ。白いのがヒエ。黄色くてコロコロしたものがうるちアワ。茶色がもちアワ。下のこげ茶が高キビ。

居間の暖炉の上に置かれた「雑穀ブーケ」が目に入り、そんな話でひと盛り上がり。特に奥さまの五月さんは、20代の頃から雑穀に惹かれた、雑穀のプロであり長年の大ファン。
「これを見るとね、みんな“ブーケ作りたい!”って言うの」
と、五月さん。

分かります。作りたいです。お店の売り場に飾りたい。かわいい…。

雑穀がつないだ縁

20代の頃から食と健康に関心があり、有機野菜を取り扱うお店でバイトをしていたこともあった五月さん。その頃、書店で手にした『未来食』(大谷ゆみこ著)で「雑穀」を知り、「穀物の雑穀で、おかずやおやつも作れちゃうなんて、おもしろい…」と思い、本を見ながら料理を始めたのが雑穀にハマり出したきっかけ。その後、プランターで雑穀を育てることにもチャレンジしました。

左:大島五月さん、右:大島勉さん

勉さんは米国アイオワ州立大学農学部を卒業し、現地で有機農業の研究施設に就職。その後、ラボでの研究の日々に疑問を抱くようになり帰国。関川村の実家(ご長男さんが継いだ米農家さん)に「農業がしたいです」と願い出て1ヘクタールの畑を譲り受けたり、地元に広がる耕作放棄地を点々と借り受けたりして、自身が理想とする有機農業に挑戦していた頃でした。さつきさんとは、まちづくりのワークショップで知り合ったとのこと。

「おいしかったんですよね、その小国町でのワークショップで食べた雑穀料理が。そして、五月が教えてくれた雑穀が、ちょうど私が米国で勉強していた頃、指導教授がとても大切にされていた“生物多様性”につながったんです。米が圧倒的に主流の日本に、こんな穀物があったんだ。それもこんなにバリエーション豊かで、おいしい!と驚き、雑穀の可能性に惹かれました」
と、勉さん。

実はこの時、勉さんは雑穀の可能性に惹かれただけでなく、五月さんにも強く惹かれていたんです。「雑穀を作って食べたい。畑に種をまきたい」と話す五月さんに、「俺の畑で育てていいよ」と言い、その後おふたりは結婚されました。

「あれは“男の一点突破”でしたね。こう言えば結婚してくれるだろうと思って(笑)」
と、勉さん。
「そうだったの!?」
と、驚く五月さん。

あら、なんだか、とても貴重な瞬間に居合わせてしまいました(笑)。


おおしま農縁さんが雑穀農家さんになったのは、五月さんが雑穀を持ってお嫁に来たことから始まった、「雑穀がつないだ縁」だったのです。

雑穀が土を豊かにする

おおしま農縁さんがユニークなのは「台所から畑をデザインする」という、生産スタイル。全ては「来年何食べたい?」から始まるそうです。「何をどのくらい食べたいか?」を考えて、1年間の畑の使い方を考える。もちろん農家さんなので、「自分たちで食べる分」と「売る分」とを分けて考え、作ります。

雑穀以外に、野菜も作っているおおしま農縁さん。「雑穀を作った後の畑に、野菜の種をまく」という循環になっているとのこと。お米の田んぼは、1年に1度、お米しか作れませんが、雑穀は、雑穀を収穫した後に野菜も作れるんですね。しかも、雑穀が土を豊かにするそうで、これはおふたりにとっても、新たな発見だったそうです。

収穫前の畑の様子(大島さんご提供写真)。栽培期間中、農薬・肥料不使用の自然栽培なので、周りの草も生い茂っています。これは「アマランサス」という雑穀。色とりどりで、きれいですね。

「雑穀は穂先のみを刈り取るので、その他の部分は、収穫後に細かく刻んで畑の土に混ぜ込むんです。そうすると、翌年の春には土になってるの。自然と雑穀が土を豊かにしてくれるから、そこで続けて野菜を育てても、全く問題が起こらないんです」
と、五月さん。

「特にここら辺は、冬場に雪が降るからいいんでしょうね。休ませることができるから、土が落ち着く」
と、勉さん。

なるほど。
この土地の気候にも利点があるんですね。

「冬はいいですよ!雑穀が全部そろうし、雑穀と相性がいい貯蔵用の発酵食品はちょうどおいしくなる時期だし、外は雪だからあくせく働かなくて済むし(笑)。この雪国の冬の暮らしの豊かさ・楽しさを伝えたい!っていう気持ちもあるなぁ…」
と、笑う勉さん。

冬が楽しい、はちょっと意外でした。
そうか、雑穀を中心に暮らしを組み立てて、雪深い地で暮らすって、こんな豊かさがあるんだ。

冬は、収穫・乾燥後の雑穀を出荷、個包装する時期で、調整や選別などの作業を室内で行うそうです。

種は全てを記憶する

毎年収穫したものの一部を翌年の種にして、次の雑穀を育てているおおしま農縁さん。この「種」について、とても興味深いお話を伺いました。

「雑穀は“頑張れる子”なんです。どんな土地でも、種をまけば必ず実をつける。ちゃんと“次につなげよう”とするんです。こんな厳しい環境の中で、よく頑張ったねー!って思いつつ、今年も収穫しました」
と、五月さん。

ちょうど取材に伺った2023年は夏の暑さが酷い年で、その前年には、この辺りは水害にも見舞われていました。

「種は全てを記憶しているんです。育った過程で経験したことを、種は全て覚えていて、次につなげる。その土地に合った種になろうとする。だから強い。生命力がある。遺伝子操作のような、不自然な類の品種改良をされた種とは、やっぱり違いますよね」
と、勉さん。

このことに気付いたことも、自身が携わっていた研究職に疑問を抱くようになったきっかけだそうです。

「今年の夏の暑さも、去年の水害も、うちの雑穀の種は覚えていますからね。また強くなるよね?」
「そうそう!もう、どっちも記憶してもらおうと思って!(笑)」
と、笑うおふたり。

雑穀は約1万5000年前から、おそらく一度も品種改良されることなく生き残っている。それは、特段注目を浴びることなく、ひっそりと食べ続けられてきたから。細々と1万5000年前の記憶を伝えながら、今ここに存在する。冒頭、勉さんが「惹かれた」と仰っていた「生物多様性としての雑穀の貴重さ・豊かさ」が少し分かった気がしました。

収穫後の乾燥中のうるちアワ(左)と高キビ(右)。おおしま農縁さんの収穫は全て手刈り。「命満ちた瞬間が一番おいしい。だから、その瞬間を見極めて、手で確かめて、満ちたものだけを収穫します。とにかく、僕らがおいしいものが食べたいので(笑)」とのこと。

僕らは施設係

雑穀を育てる上での苦労話をお尋ねすると…

「種をまけば育つので、育てることに関してはあまり苦労しないんですけど、その“育つ環境を整えること”が一番大変ですね」
と、勉さん。

詳しくお話を聞くと、おおしま農縁さんは、この辺りのいわゆる「耕作放棄地」と呼ばれる田畑を借りて雑穀を育てることにも挑戦されているそうで、中には水はけが良くないなど、手放された理由に納得するような土地もあるのだそうです。「“そんな土地で、どううまく作るか?”が毎年の課題」とのこと。

「結局、僕らは施設係なんです。種がのびのびと育ってくれる環境を整えること。それしかできないんです。でも、この施設係の仕事がまた、奥が深いんですよ…」
と、答える勉さんはどこか楽しそう。苦労話を聞いたけれど、やっぱりこれも楽しんでらっしゃるんですね(笑)。

おおしま農縁さんのエゴマ畑。施設係のおふたりが整えた環境の中で、のびのびと育っていました。

鍋の中で生まれるおいしさ

取材がお昼時に差し掛かり、「雑穀ランチ」をご用意くださった五月さん。雑穀を使ったお料理について、食事をしながら伺いました。

「雑穀料理は“味を加えておいしくする”ではなくて、“お鍋の中でおいしさが生まれる”って感じなの。食べ物のエネルギー、火のエネルギー、水のエネルギー、それに作る人の“おいしくな~れ”という気持ちのエネルギーが合わさって、お鍋の中でおいしさが生まれるイメージ」
と、五月さん。

調味料はごくごくシンプルで、主に使うのはお塩・味噌・醤油・油。外から味を付けるというよりは、「素材のおいしさを引き出すため」とのこと。ただし、引き出すためには、伝統製法で作られた本物の調味料であることが必須。今は安価に手に入る調味料が多くなり、それらは安価で販売できるように本来の作り方・内容ではなく「それっぽく仕上げられたもの」も多いのです。五月さん曰く、「おいしさの決め手は塩加減」。ミネラル豊富な「海の塩(天然塩)」を使うことが大切だそうです。

もちキビを使った、「もちキビポテトペペロンチーノ」。とってもおいしかったです…。

「食べてもらえば分かるんだけど、雑穀料理って結構しっかり味があるんです。“おいしい!が第一栄養素”と思っているので、体に良くてもおいしくなければ身にならない。おいしいと感じるもの=体が求めているものなので、私たちは“おいしい!”を大切にしています」

“おいしい!”から、雑穀を知ってもらう

五月さんが「私たち」と仰るのは、雑穀のことを「つぶつぶ」という愛称で呼び、雑穀と野菜が主役の“和のヴィーガン食スタイル”を伝えている、全国に広がる「つぶつぶ料理教室」のこと。五月さんも、こちらの料理教室の先生として活躍されています。

「いくら栄養素が高くて健康に良いから…とおすすめしても、食べ方が分からないと食べられないですよね?それに、私がまず伝えたいのは“雑穀っておいしい!”ってことです。私がおいしくてハマったから(笑)。だから、私は料理教室を通して、“おいしい!”から雑穀を知ってもらいたいです。雑穀農家として、直接このおいしさを伝えられることが1番の喜びです」
と、五月さん。

大谷ゆみこさんの雑穀料理のレシピ本は数多く出版されており、五月さんはこれを見ながら作り、そのたびに雑穀料理にハマっていったそうです。

「基本の作り方は簡単。余計な調味料は要らない。そして、1つ作ればいろんなものに展開できる。そして全部おいしくて、毎回“えっ?これがこうなるの??”っていう驚きがある。作っていて、面白くて楽しいです」
と、五月さん。

体が求める栄養素が足りていれば、お腹が空かない

雑穀の魅力は「おいしいこと」と「栄養素が豊富なこと」。特に「現代人に不足しがち」と言われる食物繊維とミネラルが豊富に含まれているので、五月さん曰く、「食卓に2割の雑穀を加えるだけで、全体の栄養バランスが整う」とのこと。

また、雑穀料理は、満足感があって腹もちが良いことも特徴の1つ。それは、「白米に比べて消化に時間がかかるから」という理由の他に、「体に必要なものが満ちるから」という理由もあるそうです。

「栄養価が高いから、少しの量でも体が満足するんです。逆に、食べても食べてもお腹が空くのは、体が必要とする栄養がとれていない証拠だと思うんですよね…」
と五月さん。

なるほどです…。
思い当たる節が、あちこちにあります…(苦笑)。

雑穀の簡単な食べ方

五月さんに、雑穀を手軽に始められる調理方法を聞いてみました。

「まずはご飯と一緒に炊いて、主食として食べる。次に、スープに入れちゃう!コトコトと20~30分煮れば、とろみがついておいしくなります。あとは、お野菜との相性がとってもいいので、野菜と一緒に煮る・炒める、がおすすめです」

五月さんが出してくださったランチ。手前のスープはとろみがあり、これは一緒に煮込んだヒエが作り出したもの。奥の小鉢に入った黒いつぶつぶはエゴマの手作りふりかけ。

まずは「雑穀ごはん」、次にスープから始める「雑穀おかず」に進むと良さそうですね。おおしま農縁さんの「雑穀ミックス」はどちらにも手軽に使える万能雑穀です。そのままお米と一緒に炊いてもいいし、スープに入れてもOK。ナチュレ片山本店、ピア万代店、オンラインストアでもお買い求めいただけます。

おおしま農縁さんは、時々ナチュレ片山本店で試食販売をしてくださいます。五月さんが来られることも多いので、雑穀のおいしい食べ方やその魅力など、ぜひ直接聞いてみてください。五月さんからあふれ出す、「雑穀愛」も感じてもらえるはず!

あのパッケージのイラスト

最後に、あのパッケージのイラストについて尋ねてみると、あれはおふたりの結婚披露宴の時のものであることが判明。農家仲間が色紙に描いてプレゼントしてくださったそうです。(パッケージ用に用意されたものじゃなかった…!)

おおしま農縁おいしい雑穀シリーズ。

どうりで、素敵なイラストなわけです。
ふたりの門出を祝う、優しい気持ちが表れています。

雑穀がおふたりをつないで、雑穀もおふたりによって新たな歴史をつなぎ生きていく。悠久の時を超えて、雑穀と大島家が共に紡ぐ物語の一端を垣間見たように感じました。

また、おふたりとお話をしていると、おもしろい掛け合いに気付きます。
五月さんからは雑穀や人に対する深い愛情が、勉さんからはそれらを合理的に解釈した上での驚きや発見の楽しさのようなものがにじみ出ている。良いご夫婦だなぁ…と節々に感じ、思わず何度も頬が緩みました。

ナチュレ片山でおおしま農縁さんの雑穀をご覧になった際は、おふたりのことを思い浮かべていただければ幸いです。そして、今、あなたの手のひらに乗っている雑穀は、悠久の時を超えてつながった1つの種。その浪漫を感じつつ、ご賞味ください。

(2023.9.29取材)

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