10年生きる命を、1年足らずで頂いている

さて、自由にのびのびと暮らす鶏たちを紹介した直後に、すみません、早速頂いております(笑)。

川内さんがヒヨコから大切に育てた鶏の、焼き鳥です。試食を兼ねてふるまってくださいました。写真左手でうれしそうな顔をしているのは、今回の取材の同行者、ナチュレ片山本店の石田店長です。

こちらの焼き鳥を含め、ひよころ鶏園さんが食肉として出荷されているのは、孵化後3カ月未満の「若鶏」ではなく、孵化後8~10カ月頃の「親鶏」。若鶏よりも歯ごたえがあり、お肉の味がしっかりと感じられるそうです。

「大手フライドチキンチェーン店で使われているような、いわゆる“KFCサイズ”と呼ばれているのが38日齢のすごく若い鶏。こんな風に、若鶏として出荷することを目的に品種改良されたのが“ブロイラー種”という鶏で、孵化して50日くらいで3㎏前後になるんです。3kg前後って、本来の鶏の成長スピードだと、雄で120~150日前後、雌で180~210日くらい。だから、孵化して50日だと、うちで飼ってる鶏はまだピヨピヨ言ってるくらい小さいですよ(笑)」
と、川内さん。

それは、本来の成長速度を無視して、早く大きくなるように品種改良された…ってことですか?

「そうです。早く大きくなった方が出荷するまでの日数が短くて、飼料などのコストを抑えられて生産性も上がりますからね。ただ、このブロイラー種、鶏としては本来の成長速度じゃないから、大きな体を脚で支えきれず、胸を地面に擦って這うように歩くんです。それ見ちゃうと、なんだかなーって…」

より効率的に、おいしく、安価な鶏肉を人間が求めた結果生まれた、ブロイラー種。鶏肉として国内で生産・出荷されている約9割が、この「若鶏」と呼ばれるもの※なので、特に意識して購入しなければ、私たちが日常的に食べている鶏肉はブロイラー種ということになります。

ひよころ鶏園さんでは、このブロイラー種は飼っておらず、卵用に名古屋コーチン、烏骨鶏、あずさという種類を、卵および食肉用に、にいがた地鶏、薬師おうはん、薬師軍鶏(しゃも)という鶏を飼っているそうです。卵を産まなくなった鶏も、ミンチなどの食肉として無駄なく命を頂いています。

「自分も昔は、若鶏がおいしいと思ってました。柔らかいですしね。ただ、味が薄いんですよね。鶏の肉は成長と共に硬くなりますが、肉の旨味は格段に増してきます。鍋や焼き鳥などシンプルな調理が向いていて、歯ごたえがあるのでたくさん食べなくても満足感が出るんですよ」

…あれ?
そう言えば、鶏って寿命ってどれくらいなんだろう?
若鶏は孵化後1カ月過ぎから3カ月、親鶏でも孵化後8~10カ月で食肉になってしまうけれど。

「鶏本来の寿命は10年くらいですね」

10年!
鶏って10年も生きるんですか?
それを私たちは、親鶏でも、1年足らずで命を頂いているんですね…。

「ですね。食肉用に育てられる鶏の寿命は、すごく短かいです」

独立行政法人 農畜産業振興機構WEBサイト「令和4年度食肉流通統計・令和4年食鳥流通統計調査結果」参照。

“鶏肉の宝石”「シャポン」

ひよころ鶏園さんが食肉として出荷されている親鶏の中でも、特に力を入れて育てていらっしゃるのが、「シャポン」という去勢した雄鶏。去勢することで成長しても身が堅くなりにくく、美味とのこと。飼育が難しいため、その希少性から「鶏肉の宝石」とも呼ばれているそうです。

先ほど試食させていただいた焼き鳥も、シャポンですか?

「そうです。軍鶏のシャポンですね。シャポンの発祥はフランスで、昔からあった技術なんですが、なかなか国外には広まらなくて。特に日本では、ほとんど流通していないですね」

おぉ…。
先ほど私たちは、とても希少な焼き鳥を頂いたのですね。

「去勢しただけではシャポンと言える大きさ※や肉質にならず、上手く育たないことも多くて…。なかなか広まらないのは、この飼育の難しさも要因の1つでしょうね」
と、川内さん。

後から調べて知ったのですが、シャポンにするための去勢手術は、「雛鳥の肋骨の間から米粒サイズの精巣を取り除く」という高度な技術が必要とのこと。この高度な技術と先ほど川内さんが仰っていた飼育の難しさから、発祥のフランスでも希少で、“最高級の鶏肉”と称されているそうです。

ところで、この高度な技術が必要とされる去勢手術は、どなたがされているんですか?獣医さん?

「いえ、私がやっています。特に資格は必要ないので」

すごい!!
外科医じゃないですか!!

「鶏の去勢専門医ですけどね(笑)。ちなみに、うちでは麻酔も縫合もしないんです。時間も2~3分ほどで素早く。その方が鶏へのダメージが少なくて、術後すぐに餌も食べます。このくらい術後に元気がないと、“シャポン”と言えるサイズ※にならないんですよ。この子のように、ずっしりと重い立派なシャポンになってくれるとうれしいですね」

去勢した雄鶏は、食に対する欲求が強くなり、食べる餌の量も増えるそうです。その結果、シャポンは脂が乗り、肉が柔らかく、旨味が強くなる。この3つのバランスの良いところを見計らって、年間通して出荷できるようにしているとのこと。

「本場フランスのやり方では、出荷直後に狭いケージに入れて、ずっと明るくライトを照らして鶏にストレスを与え、肉を緩ませるんですけど、うちではそれ、やりたくないな…と思って。カットの仕方など、こちら側の工夫でできることもありますしね。だからこそ、“頃合いを見計らう”っていうのが大切なんです。それぞれの鶏の種類や個性に合わせて出荷のタイミングを考えています。1番おいしい時期を見計らって、ですね。…まぁ、これが、出荷量が安定しない原因なんですけど(苦笑)」

※現在日本では、シャポンの厳密な定義はされていませんが、ひよころ鶏園さんでは、去勢後4kg以上(できれば内臓や羽などを取り除いた丸鶏の状態で4kg以上)で、外見的特徴として「鶏冠(とさか)の未発達、去勢鶏特有のモモの発達、皮の肥厚」が見られる個体をシャポンとしています。去勢しない場合より、ひとまわりからふたまわり以上大きくなり、最大で6kgまで育つそうです。

鶏にとって自由な環境を作る理由

川内さんは、ひよころ鶏園の初代園長。自らこの場所で、イチから養鶏業を立ち上げられました。

「養鶏業を立ち上げた理由は、“動物が好きだから”ですね。子どもの頃から動物が好きで、いつか家畜を飼おうと思ってたんです。ただ、二十歳くらいの時に動物性たんぱく質と人工添加物のアレルギーが出るようになってしまって。それで、アレルギーが出ない、私が飼える家畜が限られてしまい、消去法で鶏になった…という流れです」

2005(平成17)年の立ち上げ当初からずっと、平飼いを続けてらっしゃいますが、この育て方をする理由はなんですか?

「1番の理由は、“おいしいから”です。鶏たちにとって、健康的で楽しく過ごせる環境の方が、卵も肉も確実においしくなります。一般的な育て方である“ゲージ”は、全てをがんじがらめにして、全てを人が見てやらなければいけない。鶏に自由がない。ストレスが貯まる。だったら広い部屋や外で、自由に過ごしてもらう方がいいな、と思ってこの育て方をしています。その代わり、その自由なスペースを提供するために、手間がすごくかかるんですけどね(苦笑)」

この鶏園は、おひとりで作られたんですか?

「そうです。最初はプレハブ1棟で、扉を開けると、ヒヨコがピヨピヨ鳴いていて…という状況からです。ヒヨコって電気点けるとパニックになってしまうので、夜も電気が点けられないんですよ。だから夜は真っ暗で、犬もビビりだったし(笑)、大変でしたね。こういうところから、コツコツと、です」

この場所に決めたのは「たまたまいい場所が見つかって、水もあったのでなんとかなる、と思って」とのこと。ご自宅の新津から少し遠いため、「なかなか自宅に帰れない」のが悩みだそうで、川内さん曰く、

「ヒヨコはすぐ死んじゃうし、鶏たちも心配だし…。家に帰れないのは、あらゆることへの心配が原因ですね(笑)」

と。

「子どものうちは、外でいろいろ遊びなさい」

三児の父でもある川内さん。
平飼いをする鶏たちへも、親のような目線の話が出ました。

「人間の子どもに対してもよく言いますよね、“自然毒に触れさせて抵抗力をつけろ”って。うちの鶏も全く同じで、外に出て汚いものに触れて、体を動かして。“子どものうちは、外でいろいろ遊びなさい”って思って見ていますね(笑)」

ひよころ鶏園さんでは、一般的な養鶏場で使われている配合飼料や添加物・抗生物質などは使用せず、地元阿賀野市産の米を中心に厳選した原料20種類ほどを配合して与えているとのこと。この食事以外にも、鶏たちは自由に歩き回り、ミミズなどの昆虫も勝手に食べているそうです。健康的な食事と、自然の中で遊ぶこと・自然に触れることで免疫をつけ、抵抗力を得る。確かに、子どもと一緒ですね。

平飼いよりもゲージ飼育が好まれる現状

このように、ひよころ鶏園さんでは当たり前のように行われている、平飼い。卵も広い鶏舎内に複数設置された「産卵箱」に鶏たちが産んだものを、川内さんやスタッフさんが拾い集めています。この採卵鶏(卵をとるために育てる鶏)の平飼い、実は全国的にとても珍しい飼育方法なんです。川内さん曰く「生産量ベースで1%にも満たない」とのこと。99%の鶏がゲージで育てられているということになります。

「今は、28cmくらいの幅のゲージに、2羽入れて飼うのが一般的です。2羽入れると、競って餌を食べるようになり、よく食べ・よく卵を産むんだそうです。そのゲージを縦に7段とか9段とか積み上げて、生産数を上げる」
と、川内さん。

都会の集合住宅のようですね…。
ひと部屋は、身動きも取れないくらい狭いけど…。
病気も広がりやすそうですね。

「そうですね。まず、一般的な採卵鶏は個体差がほとんどないんです。例えば1,000羽の鶏がいたとしても、親鳥が同じならベースが一緒なんですよ。言ってしまえば、コピーの状態。しかも、ゲージ飼育では餌も同じで、鶏同士が密接した環境で暮らしているから、1,000羽が1個体と考えていい状態。抵抗力もほぼ同じで、1羽が病気にかかると一気に広がって全滅してしまう。そうならないために、飼料に抗生物質を混ぜて食べさせてるんです」

ゲージ飼育は、こういったリスクを負いながらも、生産性を突き詰めた形なんですね。そして、その結果生まれた、病気のリスクを低減するために抗生物質を食べさせる。そういう流れなのか…。

「でも、今の世の中の需要を考えると、ゲージ飼いも致し方ないと思える部分はありますよね。コンビニで売っているものだけを見ても、パンやお惣菜、お菓子、なんにでも卵は使われていますもん。それを全部、平飼いの卵で賄うというのは無理な話です」
と、川内さん。

確かに、これが、平飼いよりもゲージ飼育が好まれる、…というよりも、せざるを得ない現状なんですね。卵は消費者である私たちにとって身近な食材であるがゆえに、身につまされる思いがします。

卵には鶏が食べたものがストレートに反映される

先ほど、一般的なゲージ飼育では抗生物質を飼料に混ぜて与えている、というお話がありましたが、抗生物質を混ぜる元の飼料は何ですか?ゲージ飼育の鶏は、何を食べているんでしょうか?

「いわゆる“配合飼料”ですね。何を配合しているかと言うと、トウモロコシとか穀類などの天然物と、それだけでは賄えないので、栄養剤や先ほど話していた抗生物質を入れたり、飼料にカビが生えないようにする防カビ剤なんかも入っています。私の体はどうやらそれに反応するみたいで、市販されている卵を食べるとアレルギー症状が出て、うちの卵では出ないんです」

そうなんですね…。

「私自身にアレルギーがあるので、うちの鶏には配合飼料は与えません。自分が食べ続けられる安心・安全を、他の方にも届けたいです。特にお子さんには、飼料や環境がしっかりした卵を食べてほしいですね。卵には、鶏が食べたものがストレートに反映されるので」
と、川内さん。

ストレートに反映される…というと?

「特に黄身の色が分かりやすいですね。うちの飼料は、お米を中心とした天然物の自家配合なので、黄身の色は薄い黄色になります。色は薄いですが、お米由来の脂“リノール酸”が多く含まれているので甘味があります」

卵は、黄身の色が濃い方がおいしいっていうイメージがありますが…。

「黄身の色と、卵の味は、一切関係ないんですよ。鶏が食べたものの色が出ているだけ。色を濃くするために、飼料にパプリカとか紅麹とか入れるところもありますね。こういう天然物で色を付けるのはまだいいんですけど、合成着色料を使うとか、ちょっとどうかな?と思うものもありますからね…。うちではどちらもしないです」

そうか、関係ないのか…。
なんだろう、この、長年、何かに騙されてきた感じは…(苦笑)。

「ちなみに、うちの卵は全て有精卵です。雄がいますからね。平飼いにすると外敵も多くなるので、群れの安定のためにも雄がいたほうがいいんです。鶏にとっても、自然なことですしね、雄と雌がいる方が。鶏たちが自然に普通に暮らす中で産む卵を、我々が頂いているだけです」

全てを自分の手で、責任を持って行う

最後に、今後の目標を聞いてみました。

「鶏園を始めた時からの目標が、“ヒヨコからお肉までの全ての工程を、自分の手で、責任を持って行う”でした。ここ数年で、ようやくそれが形になってきたように思います。まずは、これを軌道にのせることが当面の目標ですね」

消費者さんに伝えたいことはありますか?

「そうですね…。どれだけこだわりを持ってこちらが育てていても、食べる方が“おいしい”と感じなければ意味がないので、やはり“おいしい”と感じてもらえるようにしたいですね。その上で、うちの卵やお肉の背景、私の思いなんかを知っていただき、共感してもらえればうれしいです」

動物に対する愛情と信頼と敬意

取材の途中で、何度か川内さんが愛犬に邪魔されるシーンがあったんです。特に冒頭、焼き鳥を焼いてくださっている時。その時に、こんなことを仰っていました。

「こいつらには生肉を与えてないんです。大切な鶏を食べちゃうといけないから。でも、そうやって“鶏は大切・大事なもの”って教え込んだら、一緒に猟に行った時、嚙みついて欲しいキジに対しても、“あれ?これ、噛んでいいのかな…?”って混乱してたりして(笑)」

面白い…。
川内さんに忠実なワンちゃんたちもかわいい。

(園内を案内していただいた時も、ずっと川内さんから離れない愛犬たち。いざとなれば熊とも戦う、頼もしい相棒だそうです)

改めて振り返ると、鶏のことを「この子たち」と呼び、愛犬のことは「こいつら」と呼ぶ川内さん。お話の節々には、動物好きな養鶏家の、動物たちに対する愛情と信頼、そして深い部分での敬意が感じられるのでした。

動物が好きだからこそ、真剣に命に向き合い、おいしい卵とお肉をつくっている。そんなひよころ鶏園さんのスタンスに、改めて惹かれた良き取材でした。

(2021.11.2取材)

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