やきいも八兵衛さんの出店日は、私たちナチュレ片山のスタッフも楽しみにしています。あの匂いを嗅ぐだけでも、幸せな気分になれるので♪

自然栽培のサツマイモ畑

はい、こちらが収穫期を迎えた、五泉市の農園八兵衛さんのサツマイモ畑です!

え?なんかイメージと違います?
え?どれがサツマイモか分からないって?(笑)

そうなんです。農園八兵衛さんのサツマイモ畑は、栽培期間中、無農薬・無施肥の自然栽培なので、草(雑草)もモリモリ生えているのです。写真の中、緑色の葉っぱがサツマイモ、その他茶色っぽいのが、秋になり枯れかけている草です。収穫はこのサツマイモの葉っぱと草を一緒に刈り取ってから行います。刈り取った葉っぱと草は土に還すため、そのまま畑に残して冬を越し、春になったら土と一緒に耕すそうです。

こちらが葉っぱと草を刈り取って、トラクターで軽く土を掘り起こした状態。この状態からサツマイモを掘り出します。全て、手掘りです。

黒い土から、真っ赤な紅はるか。
美しいですね。

「この芋を引き抜く感じ、魚釣りもこんな感じなのかな…って思ってるんです。抜く直前の手ごたえと、つるつると引きずり出されてくる感じ。楽しいですよ。ひっこ抜くまでどんな芋が出てくるか分からないし」
と、悠一郎さん。
「ちっちゃい芋ばっかり出てきて、ガッカリしたりね(笑)」
と、典子さん。
「そうそう、そういうところも、たぶん釣りと似てるんだろうなって」

収穫は毎年9月上旬から10月下旬。基本的には苗を植えた順番に、畑ごとに成長具合を見ながら収穫していくそうです。

収穫後、焼き芋になるまで

そして、あのおいしい焼き芋は、この掘りたてのお芋をすぐに…と思ったらそうではなく、この後2・3週間、土を付けたまま保管庫で熟成させるそうです。こうやって熟成させた方が、甘味が増すとのこと。

また、土を付けたままの方が傷みにくいので、土を洗い落すのもできるだけ直前に、保管庫のすぐ横にある井戸小屋で。「井戸水は季節関係なく水温が一定で、冬でも温かく、ありがたい」とのこと。五泉市はその名の通り水が豊かで、地下水も豊富な土地。この井戸小屋も昔から悠一郎さんのご実家にあり、ここで収穫した野菜を洗っていたそうです。

あとで見せていただいた「井戸小屋」の井戸水。お風呂のような大きなスペースがありました。
こちらもあとで見せていただいた、保管庫の様子。土を洗い落したあと、焼き芋になるのを待っているお芋たちです。

畑で感じる、考える

先ほどの魚釣りのお話もそうですが、八兵衛さんご夫婦、とってもよくしゃべってくださるんです。畑の中で、とても楽しそうに。

悠一郎さんは、掘り出したサツマイモのある部分を見つけて…
「こうやって、土の中でネズミにかじられたりするんですけど、かじられるとサツマイモも危機感をいだくんでしょうね。自分が大きくなるんじゃなくて、自らを栄養として子孫を残す道を選ぶ。ほら、こうやって芽を出すんですよ」

典子さんは、ふと足元の土を見て…
「昔、畑でコウロギの死骸を見つけて、感動して、泣いちゃったことがあるんです。もう半分くらい朽ちていて、まさに土に還っているところで、“あぁ、本当にこうやって、命は循環しているんだ”って思ったんです。そして、このコウロギの命がその一部となった土で、私たちはサツマイモを育て、食べている。なんか、感動しちゃって…」

畑で感じ、考え、戻ってくる「今ここにある自分」

畑の中で、いろんなことを感じ、考えていらっしゃるおふたり。
悠一郎さんはこんな風にも仰っていました。

「畑ではいつも、作業をしながら、自分の内と外とを行き来している感じなんですよね。いろんなことを考えるんだけど、つらつらと考えては、フッと消えていく。そんなことを繰り返しています」

それは、まるで瞑想のようですね。
瞑想は「無」になることではなく、頭の中にいろんなことが浮かんでは消え、浮かんでは消え、を繰り返すこと。その間、大切なのは、振り子のように「今ここにある自分」に戻ってくること、と、以前NHKで特集していたのです。

そんなことを思い出し、お伝えすると、
「確かに、そうですね…」
と、目を見開く悠一郎さん。

「自然栽培を続けて、こうやって畑に出ることを繰り返していると、だんだんと自己主張がなくなってきて、自然体になってきたように思います。楽になった。昔、自然栽培を始めた頃の方がガツガツしていて、なんなら“慣行栽培は農薬も肥料も使って、けしからん!”くらいに思っていたけれど、今はそんなこと全く思わない。今思うと、昔は無理をしていたんだと思います」

一方、典子さんも、
「自然栽培、大変なことは相変わらず多いけど、ここ1・2年でやっと、“やってて良かったな”と思えるようになったかな…。インドから帰ってきて、“自然と共に暮らしたい”と思った気持ちは、ここにつながるんだな、と」

おふたりのこれまで

悠一郎さんも典子さんも、元々はサラリーマン。「ふたりとも組織勤めが向いていなかった」とのことで、悠一郎さんは2011年に実家に戻り、農家の家業を手伝う傍ら農業を勉強し、2013年から自然栽培をスタート。典子さんはヨガのインストラクターになり、ヨガの勉強を兼ねてインドへ自分探しのバックパッカー旅へ。その帰国後すぐに悠一郎さんと出会われ、2016年にご結婚。

先ほど、「インドから帰ってきて、“自然と共に暮らしたい”と思った気持ち」と仰っていたのは、この時のことです。かと言って、帰国後すぐ、「悠一郎さんが農家だったから結婚した」というわけではなく、「お互いに読書が好きで、同じようなジャンルの本をよく読んでいたので気が合った」とのこと。だから、「“自然と共に暮らしたい”と思った気持ち」は、すぐにつながったわけじゃなかった。

サツマイモ畑で収穫作業中のおふたり。

「私が本格的に自然栽培を夫と一緒にやり始めたのは、コロナ禍でヨガの仕事が減ってしまった2020年なんです。それまでは繁忙期に少し手伝うくらい。だから、大変なことばかり目について、“なんでこんなに収量も安定しない、博打のような農業をわざわざやるんだろう?”ってよく分からなかったんですけど(笑)、本格的に自分も関わるようになって、畑に毎日出るようになったら、夫が日々畑で感じていたことも良く分かるようになって、“これはおもしろいかも”と思うようになりました」
と、典子さん。

慣行栽培と自然栽培

悠一郎さんのご実家は、今も農家。農薬も肥料も使う、一般的な慣行栽培農家です。先ほどお話があった通り、悠一郎さんも「慣行栽培は悪いもの」とは思っておらず、慣行栽培を続けるご両親も悠一郎さんが行う自然栽培を認め、作業はお互いに手伝う仲。取材に伺った日は、悠一郎さんのお母さまが収穫を手伝っていらっしゃいました。

手前が典子さん、奥が悠一郎さんのお母さま。

お母さまにも少しお話を伺うと、「自然栽培は、草が慣れなくてね~」と。

冒頭見ていただいたとおり、八兵衛さんの畑は草生え放題。「草が元気な方が、野菜も元気に育つ」という、悠一郎さんの経験から生まれた結果なのですが、慣行栽培では草は取り除くものなので、それが生え放題だと「周りの畑にも迷惑がかかる…」と思ってしまうそうです。

それでも自然に、「おたがいさま」と手伝ってくださるご両親。徐々に感化されつつもあるようで、
「あんまり消毒とかしない方がいいかな…とかね、思うようになったね」
と、お母さま。
それを聞いた典子さんは、
「人間の体にも良くないからね…」
と。

14農園八兵衛さんサツマイモ収穫作業の休憩中
午前と午後、1回ずつの休憩。

そんなご両親、今年初めて一部の畑で自然栽培を始められ、紅はるかを収穫。これも特に悠一郎さんが強く勧めたわけでもなく、自然とそういう流れになったとのこと。

みんな、自然体が素敵です。

おふたりにとって、自然栽培を続ける意味とは?

ところで、なぜおふたりは慣行栽培ではなく、自然栽培を続けるのか?

「自然環境を守るため」や「健康のため」など、自然栽培を選ぶ理由はさまざまですが、実は、おふたりにはこういう明確な理由がないそうです。思ったように収量も取れない、自然に委ねる部分が多い自然栽培をなぜやるのか?今も自問自答を続けているそう。

今回は“今のところの答え”を、おふたりに聞いてみました。

悠一郎さん。
「サツマイモを掘っていたある日、思ったんですよね。すごく天気の良い日で、空は澄んでいて、高いところにトンビが飛んでいる。そのもう少し低いところ、僕たちの頭の上をたくさんのトンボが飛んでいる。たぶんトンボはトンビのエサになる。そしてその下で僕らはサツマイモを掘っている。土の中ではネズミや虫たちがサツマイモを食べようとして、僕らと戦っている。それぞれが、それぞれの場所で、それぞれの世界を生きているんだな、と。それを体感できる面白さが畑にはある。慣行栽培もこの辺りは同じかもしれないですけど、自然栽培は人間がコントロールしようとしない分、より自然に近い中で、自分も自然の一部として強く感じられる気がします。土の中など、見えない世界を含めて、今ここに存在するもの全て、どれも排除しないのが自然栽培の良さなんだと思います。…まぁ、結局のところ、僕にとっては、“趣味の延長”かもしれません。自分のことを自然の一部として感じられる畑に出て、考えることが楽しいのだと思います(笑)」

典子さん。
「私は夫とは違い、2020年のコロナ禍から本格的に携わるようになったので、初めは本当に大変で、どんなに頑張ってもお天気ひとつで全く収穫できないこともあるし、なんでこんな大変なことをわざわざやるんだろう…と思った時期もあったんですけど、さっきお話したようなコウロギみたいに、畑で日々感じることは多くて、自分も自然の一部であることを、自然栽培の畑ではより強く感じることができる。それが好きなんだと思います。もう、みんな一緒ですよね。みんな同じ生き物。私もおいしいサツマイモが食べたいし、ネズミも虫もサツマイモが食べたい(笑)。そうやって、みんな、生きてるんだなって、自然栽培の畑だと強く感じられるから好きなんだと思います」

最後に

今回の記事、最後は、農園八兵衛さんのインスタグラムにあった、こちらの投稿を引用して終わりたいと思います。

この投稿、取材前に調べて認識してはいたのですが、正直ピンと来なかったのです。でも、今、取材を終えて記事をまとめていると、すごくしっくりときます。おふたりの今を、的確に表していると思います。

私たち農園八兵衛は2013年より無農薬、無肥料(自然栽培)にて野菜を育てています。畑は山にぐるりと囲まれた自然豊かな場所にあり、その面積はおよそ2haほどです。春〜秋に野菜を育て、雪の積もる冬のあいだは育てたさつまいもで焼き芋屋をやっています。

なぜ自然栽培で野菜を育てているのか。

それは夫婦で少し見方の違いはありますが、共通していることとして、畑で野菜を育てるという行為を生産の場としてだけではなく、環境の一部としてそれをより感じとりたいからです。

農業経営において、栽培するためには植物たちをコントロール下においた方が、望んだものやかたちが得られやすいでしょう。それは農家の暮らしを担保するために必要な条件であり、大切なことです。そして、その技術を発展させるために積み重ねられてきた努力は尊いものです。

ただ、コントロール下では見えにくい植物の自然の有り様をもう少し見えやすいかたちで表現できるのが自然栽培の魅力だと思っています。手を加えるところと、手放すところのバランスを環境の中から受け取り、行為する私たちもまたその一部として、農業に取り組んでいきたいと思っています。

(引用元:農園八兵衛さんのインスタグラム2023年6月23日投稿「農園八兵衛について」

畑でさまざまなことを感じ、考える、ご夫婦、農園八兵衛さん。
おふたりが紡ぎ出されたこの言葉に、共感します。

やきいも八兵衛さんの焼き芋がおいしいのは、おふたりが畑の中で感じてらっしゃる「自然栽培の魅力」が詰まっているからかもしれません。焼き芋をお買い求めの際は、このサツマイモが生まれたおふたりの畑、そして畑を起点に私たちの周囲に広がる、大きな世界を思い浮かべてみてください。焼き芋を食べるあなたも、その一部です。

ちなみに、農園八兵衛さんの畑でできたサツマイモ「紅はるか」は、ナチュレ片山本店の野菜売り場にも並んでいます。冬はサトイモ、夏にはミニトマトやオクラなどの野菜も並びます。そして冷凍食品売り場には、このサツマイモを低温調理し急速冷凍させた、冷凍の「紅はるか焼き芋」も。

ナチュレ片山本店のあちこちで、「農園八兵衛」を探してみてください♪

(2024.10.13取材)

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ナチュレ片山 本店

025-270-1188

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