
枯れた畑に感じる野菜たちの生命力~種をとって育てる農家~
新潟市秋葉区「よへいろん」
2025.4.28
2024年12月、夏野菜が全て枯れた畑に伺いました。
野菜農家さんなのに、いいのかな?生き生きと野菜たちが育っている夏に取材をした方が良かったんじゃないかな?…と少し心配になったのですが、この畑の主、自然栽培で野菜を育てる小林明日香さん(屋号「よへいろん」さん)は、「枯れた畑、これがまた、いいんですよね…」と言います。
枯れた畑から何が見えるのか、何を感じているのか、畑を歩きながらお話を伺いました。
ご案内いただいたのは、新潟市秋葉区。大きな幹線道路から脇道を少し進んだだけで、広々とした畑や田んぼが広がる耕作地帯。小林さんの畑は、昔おばあさまが管理されていたもので、実家のすぐ裏にあり、「ここを抜けて…」と案内する姿は、まるで友達に自分ちの庭の秘密基地を案内するよう。ちょっとワクワクしました。
「まさにそうなんですよ。実家なので、私が育った場所。この辺りでよく遊んでました。畑にはよく、ばあちゃんと行ってました」
と小林さん。
今はおばあさまが使われていた畑の他にも、地域の方から「お姉ちゃん頑張ってるすけ、うちの畑も使いなー」と言われ耕している畑があちこちにあるのだとか。ご実家にはご両親が住み、小林さんは近くの自宅からこちらに通われているそうです。
ご案内いただいた先の畑には、ビニールハウスも2棟ありました。
「1棟は通年でベビーリーフを、もう1棟は使ってなくて、物置になってます(笑)」と小林さん。
ベリーリーフはナチュレ片山にも納めていただいています。柔らかくて、1つひとつの味がしっかりと感じられると好評です。
ベビーリーフが育つ、ビニールハウスの中はこんな感じ。
ベビーリーフは、種の時点で7・8種類を混ぜてまくそうです。種を畑に直まきした後、一度だけ水を撒いて、その後は何もあげないそうです。
「いろいろ試してみたんですが、種類別に単体で育てるよりも、いろんな種類と一緒に育てた方がよく育ったんです。水に関しては、たぶんこの辺りは地下水が豊富なのか、水をあげなくても枯れない。むしろ、水をあげちゃうと溶けてなくなっちゃうから…」
溶けてなくなっちゃう?
そんな魔法のような話が…?
「ほら、レタスとか、水に濡れて痛むとズルズルになるじゃないですか。あれと同じです。ベビーリーフはもっと柔らかい新芽なので、すぐ溶けちゃうんですよね…」
「ベビーリーフは、1日・2日で表情が変わるので面白いです。その分、ベストな収穫時期と出荷のタイミングを合わせるのも難しいんですけどね…」
新潟県内各所のイタリアンレストランなどにも納めているという、こちらのベビーリーフ。「届けてほしい」と言われている日と、収穫にベストなタイミングが合わない時は歯がゆいとのこと。
「今が絶対おいしいから、今すぐ届けたい!と思っちゃいますね…(笑)」
ビニールハウスを出て再び畑を案内していただいていると、突然、足元からふわっと良い香りが…。
いい香りがします!
これ、何ですか…?
「それ、バジルですね」
バジルって、あのバジル…?
いい香りですね、青い頃のバジルよりも芳醇な、深い、優しい香り。
「確かに!青い頃とは違いますね!特に何かしようと思って、このバジル畑を残しているわけではないんですけど(笑)。そうか、確かに芳醇な香りだぁ…」
と、うれしそうな小林さん。
私たち取材班も、まさか枯れた畑からこんなに良い香りがするなんて思っておらず、驚きました。枯れたバジルの葉を私たちが踏むから、歩くたびにふわっと香るんです。
改めて周りを見渡すと、夏野菜はことごとく枯れ果てているのですが、「元気がない畑」ではなく、「これが私たちの最終形態です!」とでも言わんばかりの、堂々とした存在感がありました。
そして、意外に色とりどり。
緑や紫など落ち着いた色の夏野菜が、枯れる頃にはこんなに鮮やかな明るい色になるんですね。
「今はもう、収穫を終えて、種もとって、次の春までほったらかしの畑ですが、いいですよね、この枯れた畑も。好きなんですよね…」
分かります。なぜだか、落ち着く…。
枯れた畑を歩きながら、次に小林さんが見せてくれたのは、枯れた実の中の、種。
真っ赤なピーマンからは、黄色い種が。
茶色く、カラッカラに乾燥した細長いさやのようなものからは、モロヘイヤの種が。(モロヘイヤって、こんな実をつけるんですね…!)。
自家採種が認められている種に関しては、なるべく自分で種をとって、次の年、同じ場所に植えるんだそうです。
「種が土地を記憶するってよく言うんですけど、本当なんですよね。だから、徐々によく育つ野菜になるんです。最近のうちの畑で言うと、ピーマン。種をとって、翌年植えて、を繰り返して4年目からかな、すごくよく育つようになったんです」
と小林さん。
「あとはやっぱり、希少品種は自分で種をとって残していかないと、世の中から消えてしまう。残したい、作り続けたい、と思うものは、自分で種をとるようにしています」
小林さんが種をとるようになったのは、自然栽培を始めてしばらくして、自然栽培農家さんとの交流が始まってから。本を読んだり、先輩の農家さんに見せてもらったりして勉強したとのこと。
「正直手間ですけど、作りたいと思うものは、今種をとっておかないと!と思って。自分が大切にしたい野菜、作りたい野菜を作り続けるためには、種をとることが大事。あと、自分でとった種が発芽した時は、感動しますよ!“ちゃんと発芽するんだ!”って(笑)」
種をとるタイミングも、とり方も、野菜によってさまざまとのことで、
「トマトなんて、食べられるくらいのものを発酵させて、種の周りのゼリー状のものを洗い流して、乾燥させて、やっと種がとれるんです。すごい手間でしょう(苦笑)。種とり用にどの子を選ぶかは直観、もしくはなりゆきです(笑)。この子だ!と思って種とり用に残すこともありますし、生き残ったものの中から選ぶこともあります」
小林さんの前職は、建築資材メーカーの営業職。新潟県や近隣県の設計事務所やハウスメーカーに対して、環境に配慮された資材を販売していたそうで、「その頃から、キチンとしたものを人に勧めたい、という思いは変わらない」とのこと。
またその頃から、休日には実家の畑で家庭菜園をしていて、「自分で食べるものは自分で作りたい」という気持ちでいたそうです。
元々学生時代から食に関して興味があり、留学生との交流も多かったため海外文化に触れる機会があり、スローフードやオーガニック、環境に関する本や雑誌もよく読んでいたとのこと。自分が育てた野菜を会社に持って行くと、みんなおいしいと喜んでくれる。「いつか、自分で作って、自分で売れるようになるといいな…」と思うようになったと言います。
そして、2010(平成22)年に一念発起し、退職。小さな畑から始め、本格的に就農したのは2年後の2012(平成24)年。自分が育てたい野菜、やりたい農業を、本を読んで勉強し、畑で試行錯誤する日々。
収穫した野菜の販売方法は、なんと、訪問販売。車に収穫した野菜を乗せて、近隣の個人宅のインターホンを押し、「こだわりの野菜を作っています」と伝えて回ったそうです。その頃に知り合ったお客さんの中には、今でも野菜を届けている方がいらっしゃるとのこと。このような個人宅への販売も、人づての紹介で徐々に増え、知人のお店にイベント出店したり、時々開かれるマーケットに出店したりしていたそうです。
「ほんと、作ったはいいけど、販売する場所が無くて困りました。もちろん、農業だけじゃ生活できないので、夜は塾講師のアルバイトなんかもやってました」
と小林さん。
「だから、ナチュレ片山さんができた時には感動しました。これで安心して作れる!って。売る場所がある安心感って、作り手にとってほんと有難いんです。それに、今絶好調の(笑)ベビーリーフを作ることになったきっかけもナチュレ片山さんでしたし、感謝しています。自分ひとりでは届けられない人のところへ、こちらの想いも含めて届けていただいていると思っています」
と、うれしいお言葉。ありがとうございます。
ところで、屋号の「よへいろん」とは?由来は何ですか?
「うちの実家の屋号です。昔からこの辺りの人からは“よへいろん”って呼ばれていましたし、私がこうやって自分がやりたい農業をできているのも、家族のみんなが協力してくれたおかげなので、○○農園とかじゃなくて、“よへいろん”って名乗ろうと最初から決めていました」
なるほどです。
「うちの父は農学部出身で、兼業農家のような形で農業には携わっていました。そんな父からしたら、“何も知らないお前ができるわけない!”という感じで最初はぶつかっていたんですが、徐々に手伝ってくれるようになって。未だに、憐みのまなざしで見ているみたいですけどね。“お前が泥だらけで、野菜運んでる姿を見てると泣けてくる”とか(笑)。私は楽しんでやってるんですけどね!」
ご実家の建物からよく見える位置に広がる、こちらの柿畑。この柿の木は、小林さんが自然栽培をやると決めた頃から、お父さまも自然栽培に切り替えてくださり、今もずっと世話をされているとのこと。
「“俺が丹精込めて世話しても、これっぽちしか採れねーんかー”って嘆いてます(笑)。慣行栽培に慣れているので、そりゃあショックですよね」
こちらの柿も、秋にはナチュレ片山に並ぶのでお楽しみに!
「枯れた畑が好きだ」と何度も仰っていた小林さん。
最後に、その真意を探ってみました。
「心地がいいんですよね、枯れた畑を見ていると。私が作っているものは、最終的にはこういう枯れ果てた姿になって、子孫を残して死んでいくんだな…と思って見ています。結局、私たち人間は、野菜の一生の途中、一生の一部を頂いているんですよね。だから、この枯れ果てた姿は一生を全うした姿だし、いい循環を守っていけている証でもあるので、見ていて心地がいいです」
「私たちは野菜の一生の一部を頂いている」、今までそんな風に考えたことはなかったけれど、確かに、この畑を見ると説得力があります。
「それに、そう思うと、余計に大事に食べられますよね」
確かに!
小林さんは終始楽しそうに、畑や野菜のことを愛おしそうに話す方でした。そして、全ての原動力は、「おいしいものが大好き!元気になれる野菜が大好き!」という気持ち。
「私なんでも食べちゃうんです。おいしそうだな、と思ったら、なんでも生で、畑で食べちゃう。自分が食べておいしい!と思った時が、最適な出荷時期ですね(笑)」
無邪気に語ってくださる笑顔の裏には、勉強熱心で、試行錯誤をコツコツと繰り返してこられた、学者のような一面も随所に感じる小林さん。とても魅力的な方でした。
ナチュレ片山で「よへいろん」と記されたお野菜を見つけたら、小林さんの笑顔と枯れた畑が教えてくれること、「野菜の一生の一部を頂いていること」に思いを馳せてみてください。また違った味が、楽しめるかもしれません。
(2024.12.10取材)
ナチュレ片山 本店